新ブランド「XMAT(トランスマット)」の立ち上げとビジョン②ユーザーのニーズ
本記事は、2021年1月にTransReed限定版ブログで公開したものです。 |
川村インターナショナル(KI)は、2021年1月に機械翻訳技術を中核にした新しいプラットフォームとして新ブランド「XMAT(トランスマット)」を立ち上げます。今回の特集では、代表取締役社長森口功造にインタビューを実施し、新ブランドの立ち上げの背景やビジョンについて質問しました。
目次:
翻訳支援ツールを使いこなせていないユーザーの存在
森口:
もう一つのきっかけは、今年の出来事です。当社はmemoQ、Memsource、Translation Designerなど、翻訳メモリ(TM)と呼ばれるデータを蓄積し、活用するツールをユーザーとして利用するだけでなく、自社の顧客に販売もしています。
これらのツールは翻訳支援ツール(CAT)ツールと呼ばれる、翻訳業界特有のツールです。過去に翻訳した文をデータベースに格納し、類似した文を翻訳する際に過去の訳文を流用することで翻訳の質の安定化やコスト低減を実現できます。当社が提供しているみんなの自動翻訳@KI(商用版)や、Google、DeepLなどの機械翻訳をAPIで連携して利用するケースが増えています。CATツールは、当社のような専門ユーザーには必須のツールです。また、機械学習を活用したサービスを検討する場合にも、とても役に立つものです。
一方、日常的に翻訳業務に携わっていないビジネスユーザーが利用する場合には、機能が複雑すぎて使いこなせないケースが多くみられました。事実、当社が実施した最近の調査では、CATツールを導入した企業ユーザーの約85%が、翻訳メモリを効果的に蓄積できておらず、約94%が正しく管理できていないことが判明しました。
つまり、こうしたユーザーは、機械翻訳を利用するために翻訳支援ツールを導入しているだけで、翻訳メモリをほとんど蓄積していなかったのです。この傾向は、ニューラルネット機械翻訳の登場で、翻訳精度が大幅に向上してから、特に強くなったのかもしれません。
こうしたことから、翻訳支援ツールを必要としていないユーザーには、翻訳メモリではなく、機械翻訳を中核技術に据えるほうが役に立つという気づきが生まれました。これをQuick MTという機能で実装しました。翻訳メモリによるComputer Assisted Translationから、機械翻訳を中核技術に据えたMachine Assisted Translationツールという名称を検討したのもその時期です。
QuickMT操作画面
「XMAT(トランスマット)」という呼称について
質問:それがMachine Assisted Translation = MATという名称につながっているということですね。「X(トランス)」という呼称はどこから来ているのでしょうか。
森口:
英語圏では、”trans-”という接頭辞を”X”というアルファベットで表現することがあります。コロナ禍で一層耳にする機会が増えた「DX」が「Digital Transformation」の略語なのもそのためです。古くはラテン語の「~を超える」や「~を横切る」という意味に由来していますが、”cross”とほぼ同義であることから、アルファベットの”X”が用いられるようになったともいわれています。
ミッションステートメントと設計方針
森口:
2020年5月に私が代表取締役に就任した直後に、当社のミッションステートメントを変更しました。XMATは、「翻訳を必要とするすべての人に変革を」というミッションを実現するためにお客様に提案する新しいプラットフォームです。法人であれ個人であれ、1ユーザーの潜在的なニーズに対応できるような設計を行うことを意味しています。
Xに「超える」イメージを表現したロゴデザイン
質問:1人のユーザーのニーズが多くのユーザーに対応できるとは限らないのではないのではないでしょうか。
森口:
その通りです。一部の機能は専門ユーザーには物足りないかもしれません。しかし、我々翻訳会社のような専門ユーザーが実際にカバーしている需要は世界中の翻訳需要のわずか1%だけだという事実も忘れてはいけません※3。プロの翻訳者が求められる専門的な領域と、ビジネスユーザーの領域では要求される機能は当然異なってくるはずです。専門ユーザーの要求に焦点を合わせるあまり、ビジネスユーザーを無視していては、残りの需要を無視しているのに等しいとも言えます。
現バージョンのXMATは、ビジネスユーザーが機械翻訳の利用とポストエディットの効率化をできることを目標にして作っています。今後は専門ユーザーの潜在的なニーズに合わせて、一部の機能をマイクロサービスとして実装していくことにしています。必要なサービスを、必要な人が、必要な時に、役割に応じて使い分けていただくことを想定しています。
<③につづく>